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大阪地方裁判所 昭和43年(ワ)2806号 判決

原告 大阪シヤープ電機株式会社

右訴訟代理人弁護士 西本鋼

右復代理人弁護士 大蔵永康

被告 大阪府理容環境衛生同業組合

右訴訟代理人弁護士 藤原光一

同 久保義雄

同 本渡諒一

右藤原光一訴訟復代理人弁護士 高階貞男

主文

原告の請求は棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

(申立)

原告は「被告は原告に対し金二〇〇万七八一一円とこれに対する訴状送達の翌日から完済まで年六分の金員を支払え」との判決と仮執行の宣言を求めた。

被告は、主文と同旨の判決を求めた。

(請求原因)

(一)原告は、家庭用電気製品の販売を営業目的とする会社であるが、昭和三八年一〇月一日、被告との間に、次のような契約をした。

(1)原告は、被告の承認を得て、被告の組合員に対し、所定の購入票により、家庭用電気製品を販売すること。

(2)被告の組合員の原告に対する商品代金の支払につき、被告は連帯保証をする。代金は毎月二〇日しめ切りで合算額を毎月末日までに被告に請求し、被告は翌月末日限り原告に持参又は送金して支払うこと。

(二)右契約に基づき、原告は、昭和四二年八月まで被告を経由して被告の組合員に対して商品を継続して販売し、売買代金の支払期はすべて到来した。そして、被告は同四二年八月一七日現在で合計金二四三万〇一三五円の売掛代金債務があることを承認した。右金額から、値上分金一万五五五〇円、被告が同四二年一〇月九日原告に支払った分金七万三九五〇円および、原、被告間の約定により被告が取得できる手数料(支払額の五パーセント)金一〇万五六七四円を控除した残額金二〇〇万七八一一円が未払のままとなっている。

(三)よって、原告は連帯保証人である被告に対し右売掛代金未払分金二〇〇万七八一一円とこれに対する訴状送達の翌日である昭和四三年五月三〇日から完済まで商事法定利率年六分の遅延損害金の支払を求める。

(請求原因に対する被告の答弁と仮定抗弁)

(一)請求原因(一)のうち、被告の組合員の原告に対する代金支払債務を被告が連帯保証したことは否認し、その余は認める。同(二)は争う。

(二)仮りに、原、被告間において、被告の組合員の原告に対する代金支払債務につき保証契約が成立したとしても、右保証契約は、昭和三九年二月合意解除された。すなわち、昭和三九年二月、原告の指定業者である訴外合資会社鈴木電業社(三世電化)と、被告の組合員のために共同購入などの事業を行うことを目的に新しく設立された訴外大理環産業株式会社との間に、新たに次のような内容の契約が成立した。

(1)三世電化は、被告の組合員に電化製品を販売し、大理環産業株式会社は被告の組合員の電化製品の購入をあっせんし、代金回収に特別の便宜を与える。

(2)三世電化は、大理環産業株式会社に対して販売代金の五パーセントをあっせん手数料として支払う。

そして三世電化は、右契約に基づいて被告の組合員に電化製品を売り渡すようになり、原告も右事情を知ってこれを承認したから、これによって、原、被告間の前記契約は解消されたものである。

そして、合意解除以前である同三九年二月分までの売掛代金についてはすでに完済されており、合意解除後は、被告の組合員は原告と取引したことはない。

(抗弁に対する原告の答弁)

合意解除の事実および昭和三九年二月分までの売掛代金が完済された事実はいずれも否認する。

証拠〈省略〉。

理由

一、〈証拠〉によると、原、被告間において、昭和三八年一〇月一日、原告が被告の組合員に対し、組合員の指定するシヤープ製品を原告指定業者を経由して売り、被告は、毎月、購入した各組合員から、その支払代金を回収したうえ一括して翌月末日までに原告に支払い、手数料としてその月の回収金額の五パーセントの支払を受け、かつ被告は、原告に対し被告の組合員が購入した代金の支払について保証義務を負うことを内容とする契約が成立したことを認めることができ、右認定を覆えすにたりる証拠はない。

二、そこで、主債務の存否について検討することになるのであるが、この点につき原告は、昭和三八年一〇月一日から同四二年八月までの間に被告の組合員に対し売った商品の代金のうち金二〇〇万七八一一円が、既に履行期が到来したのに未払であると主張するのみで、主債務の具体的内容すなわち、個々の特定の組合員に対していくらの売掛残代金債権があるのかを明らかにしない。

ところで、前記認定の原、被告間の保証契約によって担保される主債務は、原告と、被告の個々の組合員(被告は、組合員数は約五五〇〇名であるという)との間における商品売買契約から生ずる代金支払債務なのであるから、被告の保証債務の存否を確定するためには、どうしても、主債務である個々の組合員の買掛代金支払債務が特定されていなければならないのである。主債務が特定していない以上訴訟物である保証債務履行請求権も特定しない関係にある。そして、原告の右主張の程度では、個々の組合員が原告に対していくらの売買代金支払債務を有しているのか明らかでなく、主債務が特定していないといわざるをえない。主債務を特定するようにとの釈明に対し、原告は、本件は割賦販売取引でしかも継続的な取引であり、被告の組合員数も多いから、主債務を逐一明らかにすることは極めて繁雑であると主張しているが、そのような事情があるからといって、主債務の特定が不要になるわけではない。なお付言するに証人大仗栄一、同金浦こと金台逸の各証言によると、本件取引における原告の指定業者である訴外合資会社鈴木無線電業社(三世電化)は、被告の組合員に対し、指定商品であるシヤープ製品以外の製品をも売っていたことが認められ、従って原告の本訴請求金額の中には、シヤープ製品以外の商品の売買代金が含まれているのではないかという疑いもないわけではなく、このような疑念が生ずるのも、原告が主債務を特定しないからである。

三、以上の説示から明らかなように、個々の組合員の主債務が特定されない以上、原告の被告に対する保証債務履行請求権もまた特定していないということになり、原告の本請求は、その余の点につて判断するまでもなく失当である。

よって、原告の請求を棄却することとし、民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 増田定義)

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